電車内のトラブルっていろいろ聞きますよね。
喧嘩、暴力、痴漢、スリ、酔っ払い、などなど・・・
毎日のようにどこかで起きてることなのでしょう。恐らく何度か目にした人も多いと思います。
自分も10年以上のあいだ都内まで電車通勤をしていたので何度かトラブルを目撃することもありました。しかし、幸いなことに大きなトラブルに巻き込まれたことはありません。
その中で頭に思い浮かんだものを書いてみようと思います。
今回は男二人の言い争いに出くわしたお話です。
始まりはいつも通りの朝だったが・・・
僕はS宿駅にいた。
朝7時のS宿駅はラッシュのピークに向けてぞろぞろと人が急激に増え始めていた。仕事に向かう人、学校に行く人、朝は皆忙しそうに、そして無表情で歩いている。まるでロボットのようだ。
私もそんな一人に違いない。
ただし今日は珍しくこれから家に帰る所だった。人の流れに逆らうように歩き、私は電車に飛び乗った。
S宿駅が始発、しかも郊外へ向かう電車とあって席にはまだ所々に空きがあった。
ラッキーである。
乗っているのはたかだか15分たらずだが、座っていられるのは嬉しい。私は迷わず空いている席に座った。
若い時は席が空いてても立っていたものだが、自分も少し歳を取ったのかもしれないな。そんなことを思いつつ、目をつぶりウトウトと眠り始めていた。
しばらくして隣の駅に着いたらしく、どたどたと乗客が乗り込む音が聞こえた。
ここも大きな駅である。乗る人の数もそこそこ多かったのだろう。席は満席になり何人かが立っている状態となった。
電車が走り出してすぐの事だ。突然不穏な声が耳に届いた。
「おまえ、わざとぶつかっただろう?」
決して大きくはないけど、険悪な雰囲気だけはひしひしと伝わってくる声だ。目を開けてそちらを見ると5mほど離れた所で二人の男が対峙していた。
一人は椅子に座っており、やや大人しそうな印象を受ける30代前後の男性。そしてもう一人はその前で仁王立ちしている、ごっつい体の年齢不詳の男である。
ごっつい男の方が一方的に怒っており、それに対して座っている方が困惑している。そんな風に見えた。
どうしよう? 迷える子羊
周りの人も一瞬そちらを見るものの視線をそらし、ただこれからどうなるのかを固唾を呑んで見守っている感じだ。
みんなシーンとしながらも車内は異様な重圧感に覆われていた。
どうしよう
早く終わってくれ
被害を被るのはごめんだ
動画撮っちゃおうか
次の駅で駅員に知らせた方がいい?
自分は絶対に関わりません
色んな人の思いがそこには交錯しているようである。
私だって関わりたくはない。
丸太のような腕、盛り上がった肩周り。ちらっと見ただけでも猛者だとわかるその風貌はまさにサイボーグである。
かたや私は学生のころ、「クラスで最弱の右腕とブービーの左腕を持つ男」と言われ、最弱の称号を欲しいままにしていた人間だ。
勝負になるわけがない。
漫画のように車両の端から端まで吹っ飛ばされるか、もしくは地平線の彼方に飛んで行ってお星さまになってキラーンと消えるかもしれない。
でも‥‥‥
ここで見て見ぬふりをしたら自分のことが嫌いになるだろうなぁ。おそらくずっと引きずるはずだ。私はそういうヤツである。
「いや、あれは仕方がないよ」
後でそう自分に言い聞かせて納得しようと努力するだろうけど、きっと納得しない。どこかモヤモヤしたものが残るはずだ。
自分の心は騙せない。
だから多分、私は行く
もしこの言い争いが暴力沙汰に発展しそうになったら止めに行く
行ってしまうのだろうなぁ・・・
だからお願い。このまま収まって(-人-)
そう思ったのもつかの間
「てめぇ、ふざけてんじゃねーぞ!」
突然大きな声と共にその男はもう一人の胸倉をつかみました。
そしてそれと同時に私は立ち上がって男たちの方に歩き始めていました。
ほ~ら
行っちゃったでしょ( ̄▽ ̄;)
歩いて向かっている間、頭の中ではこんな事を思ってました。
あぁどうすんのよ、自分。歩いて行っちゃってるけど・・・。喧嘩を止めるとかそんなスキル全然ないよ。どうやって止めるつもりなの?
あぁ~あ、まったく何やってるんだか。
バカでしょ、バカ!
まぁしょうがないか、そう自分が決めちゃったんだから。なるようになるだろ、ダメだったら逃げればいい。
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立ち上がって男たちの前に行くまで、おそらく3秒くらいの間でしたが一瞬で頭の中を駆け巡りました。
そして次の瞬間、私は
「はい、ストップストップストップ~。いったい何があったんですか」
と明るく素っ頓狂な声を出して二人の間に割って入りました。
相手にとって意外な展開だったのか、胸倉からスルリと手が外れます。これは出だし上々。もし私に対しても怒り狂って手を出してくるようなら
「およびでない?こりゃまた失礼いたしました」と言って逃げるつもりでしたが、その必要はなさそうです。
そして私にとってラッキーな事に、もう一人同じタイミングで仲裁に入ったお兄さんがいました。
これはすごい助かります。
一人が二人になった事で一気に重荷が軽くなったような気がしました。
まさに救世主です。
どうやって喧嘩を止める?
とりあえず私の方針はこうだった。
- 時間を稼ぐこと
- 二人を遠ざけて意識を自分達の方に向けること
- 相手の話を聞いてあげること
よく怒りのピークは長くは続かないと聞く。
6秒でしたっけ?
6秒かどうかはともかく、長く怒り続けることが難しいのは確かだと思う。ならそのピーク時間をどう乗り越えるかがカギになりそうだ。
ただしこれには怒りの供給源を断つ必要がある。
一つの事柄で怒り続けることは難しくても、新たな怒りの素を与えてしまっては別の話だ。
この場合、もし喧嘩相手が罵声を浴びせ続けていたとしたら怒りなんて収まるわけがない。新たな怒りが湧き上がる一方だ。
そうでなくても相手の顔を見ただけで怒りが再燃しそうなのに・・・
なので二人の間に割って入りお互いの顔が見えないように、そして距離が離れるように出来るだけしよう。そして話しかける事によって意識を相手から私たちに向けるのだ。
とりあえず理由を聞いたりして同調してあげられる所は同調し、物事を整理することで相手を少しでも冷静にさせるしかない。幸い座っている方の男は大人しくしているからサイボーグさえどうにかすれば大丈夫だろう。
こう書いてしまうと私がさも冷静に喧嘩の仲裁をしているように感じますが、これは今ふり返ると「そんなふうに頭のどこかで考えていたのかな?」と思う程度。
実際は自分が何を喋っているのか自分でわからないくらい焦りと不安でいっぱいでした。
説得、成功と失敗
とりあえず理由を聞いたところ原因は「電車に乗る際にぶつかって来て、席をとられた」という事らしい。
実にくだらねぇ~(-_-;)
それを見た訳じゃないのでどの程度ぶつかったのかわかりませんが、それでも大の大人が取る行動ではないですよね。
それから私と救世主、ふたりの説得が続きます。
「まぁ、ぶつかってイラっとする気持ちはわかりますけど、相手もわざとじゃないって言ってますし・・・」
「うん、そうそう」
「それでこんなに言い争ってもつまらないじゃないですか、もったいないですよ。もう終わりにしませんか?」
「今あなたいいこと言った! そうですよ終わりにしちゃいましょうよ」
初めて会った二人なのですがコントでもやっているようなテンポで説得は進行し、あれよあれよと言う間に相手を次の駅に降ろすことに成功したのです。
駅のホームでこちらを見ているサイボーグ
電車のドア付近に立ってる私たち
発車メロディーが鳴り終わる
これで終わりだ
このままドアが閉まればもう安心
さらば、サイボーグ
出典:ターミネーター2より
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・早くドア閉まれよ(;一_一)
しばらくお互い見つめ合っていたのですが、サイボーグがふと我に返ってしまったようである。
「おかしくねぇか?なんで俺が電車から降りなきゃならねーんだよ」
そう言ってドアが閉まる直前に車内に入ってきちゃいました。
惜しい!
あともうちょいで封印できる所だったのに。さっさとドア閉めてくれよ~運転手さん(T_T)
サイボーグ復活(-_-;)
もう終わったと思っていたので失望感もひとしおである。
はぁ、また振り出しかぁ。
そう思ったのだが、どうやら怒りのピークは過ぎたようで話す内容も口調もかなり落ち着いたものに変わっていました。
今までの時間と苦労は無駄ではなかったようだ。
そしてついに
「もういいよ。わかったよ。おれが悪かった」と言いました。
良かったぁ、こんどこそ本当に終わりだ。それにちょうど自分の降りる駅にまもなく到着します。これで解放される。
私の頭の中では既にエンディングの音楽が鳴り始めていました。
しかしそれをぶち壊すように、まさかの台詞が私を襲った。
「いや、納得いきません」
「はい?」
自分の耳を疑った。まさに晴天の霹靂。
一緒に説得していた救世主も、そしてサイボーグも、下手したら周りのギャラリーですら「えっ⁉」と思ったかもしれない。
その言葉の主は今まで静かに座っていた方の男である。
怒りの立場逆転?
なんか話がまた訳わからない方に向かっている所で私が下車する駅に到着してしまいました。
「自分ここが降りる駅なのでこれで失礼します」
とも言えず、無情にも閉まるドア。
しかもこれ快速だからここから飛ばすんだぞ(T_T)
ええい!もうどうにでもなれだ。
乗りかかった船だし最後まで付き合ってやろうじゃないか!
「納得いかないってどういう事ですか?」
「私は胸倉を掴まれました。暴力をふるわれたんです」
確かにそうだ。いきなり掴みかかられたのだから理不尽でもある。怪我をしていたなら迷わず警察に行くことを勧めるのだが・・・見たところ傷ひとつ付いてないようだ。
「あちらの方も謝っていますが、それではダメなんですか?」
「謝って済む問題じゃありません。許せません」
「じゃあどうすれば良いんです?警察にでも行けばいいですか?」
「はい」
さてどうする?
なんとか丸く収めようと思っていたのですが、そうもいかないようである。
私は困った顔を救世主とサイボーグに向けた。
しばらくの沈黙のあと
「じゃあ行くよ、警察。それでいいんだろ」
とサイボーグが言った。
もうそれしか無いかな。
当事者2人だけで行かせるのも不安だし、事の発端やいきさつなど第三者がいた方が警察もわかりやすいだろう。
そうして私たち4人は次の駅で降り、改札を抜け駅前の交番に入っていった。
今までの経緯を警察に話すと、二人は別々に引き離されてこれから事情聴取を受けるようだ。私たちにはもう特に用は無いらしく、念のため連絡先を警察に伝えて退散する事となった。
交番を出ようとした時、サイボーグから声が掛かった。
「悪かったな、いろいろ迷惑かけて」
本当ですよ!大体あの駅で大人しく降りてくれてたらこんな苦労はしなかったし、あなたもここまで面倒な事にならずに済んだのに。もうバカバカバカーん!
そう頭で思いながら私は「いえいえ」と言って軽く頭を下げた。
救世主とは駅で別れる事となった。
彼の目的地はまだまだ先であるらしい。自分は行き過ぎてしまったので戻る方向だ。改札を出てしまったので電車代160円ほど余計に払うはめとなった。
なんてこったい。
去り際に「あんさん真面目すぎるわ~」と救世主は笑って言った。彼は止めには入ったけど、ここまで深く関わるつもりは無かったらしい。どうやら私に付き合ってくれたようだった。
彼には本当に感謝している。おそらく自分だけではこうは行かなかったはずだ。
終わった。こんどこそ確実に終わりました。
えらい面倒事に首を突っ込んでしまったものです。なんの得にもなりゃしない。
ただ・・・・・・
自分を嫌いにはならないで済みそうである。
そう、本当にそれだけだったんです。
真面目でも他人を思いやったわけでも正義感でもない。
全てはただ自分のため。自分のエゴ・・・
こうしてどっと疲れるような朝は終わりを迎えました。
その後あの二人がどうなったのかは知りません。
ただ今回の件で思ったことは
くだらん喧嘩はしないに限る!
喧嘩をしても得することはありません。自分も相手もその周りも、すべてが損をするだけです。
私もカッとなりやすいですからね。他人事ではありません。自身の胸にも深く刻んでおきたいと思います。
※ここまでの長文を読んでくださり本当にありがとうございます。
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