■Day Break-1 ----跡部×菊丸

「・・・・・なんだか良く解んねーや・・・・・」
壁際に並んだ現代アートの群の圧迫感に菊丸英二は欠伸をかみ殺した。
周りにいるのはしゃれた格好のOLと気取ったオバサン。それからスカしたカップル。
崩した着こなしと表現するには剰りにもだらしない自分の格好は明らかにこの場の雰囲気にそぐわない。
渋谷では良く遊ぶけれども、大体が駅からセンター街の範囲だ。
宮益坂を登りきったこのエリアは首尾範囲じゃあ無い。
ちらりと携帯のディスプレイに目を落とす。
一時十七分。メールの着信は無い。
不二が待ち合わせに遅れるのは珍しい。
見る予定だった映画はもう、予告編が始まってしまっただろう。
(この回はもう駄目かな)
不二が指定した小難しいタイトルのフランス映画は、英二にはさして興味を誘うものでは無い。
(ま、いっか。別に映画見たかったわけじゃねーし。不二には奢らせればいいや)
周囲の気取った空気に耐えかねてエントランスを出た所で携帯の着信が鳴った。
案の定、携帯のディスプレイは発信者が不二である事を告げている。
受信ボタンを押すのと同時にかぼそい不二の声が聞こえた
「もしもし?英二?」
「不二?今どこ?映画始まっちゃうよ?」
「ゴメン。ちょっと都合悪くなっちゃって。」
「はぁ?ドタキャンかよぉ?どしたのさ?」
「ゴメン。今朝急に叔父さんが倒れたって連絡があって。
うち今、父さんいないでしょ?姉さん昨日から出かけてるし。
母さんが一人じゃ心細そうだから、今一緒に病院に来てるの。」
「ええっ?!何、それ。大変じゃんっ!大丈夫なの?」
「うん。別に命に関わる事じゃ無いみたいだから。明日には帰るよ。」
「んじゃ、仕方ねーよなー。いいよ。俺、適当に遊んで帰るから」
「ごめんね。この埋め合わせはいつかするから」
「何言ってんだよ、ばーか。そんな事ゆってる場合じゃねーだろ?おばちゃんは?平気?」
英二はおっとりとした不二の母親の顔を思い浮かべた。
大家族でしょっちゅう誰かが怪我や病気で大騒ぎしている自分の家とは訳が違うだろう。
「うん。おじさんの顔見たら安心したみたい。もう平気。」
「そっか。なら良かった!俺の事はいーからさ。」
さらに謝ろうとする不二を押し止めて、強引に電話を切った菊丸は、道路を隔ててずらりとならぶ自動販売機で缶コーラをひとつ買うと、そのままエントランスの階段に座り込んだ。
「さて、どうすっかな。」
財布の中には千円札が二枚と小銭が少し。
映画は不二がどこかから手に入れた招待券の予定だったし、自分から誘った時の不二は必ず食事を奢ってくれるから、はなから財布を開く気もなかったのだが、
一人で渋谷をふらつくには心許ない金額ではある。
ぼんやりと通り過ぎる人影を眺める。
バレエの公演看板。モーツァルトのコンサートのポスター。
今日観るはずだったフランス映画。
ほんの数百メートル離れただけなのに。この辺はいつも遊ぶセンター街のあたりとはまるで雰囲気が違う。
「とをあえず、場所変えっか…」
空き缶を握りつぶして立ち上がろうとした時突然頭上から声がした。
「どうした?シケた面して。デートでもすっぽかされたか?」
「んあ?」
見上げた視線の先にいた人物が意外だったお陰で、おもわず間抜けな声が漏れた事を後悔する。
「間抜け面してんじゃねぇよ」
「あれ?跡部?何やってんの?こんなトコで」
「何やってんのはそっちだろ?女にでもすっぽかされたか?」
相手が口の端をあげて薄笑いを浮かべたのを見て、菊丸はちょっと考える。
男にすっぽかされるのと女にすっぽかされるのと。どっちが格好悪いか。
「ん?まあ、そんなトコ」
やっぱり日曜の午後、男と待ち合わせしてたことの方が格好悪い気がして菊丸は言葉を濁した。
「そっちこそ、色男が一人で何やッてんのさ?」
「あん?俺か?コーヒーが切れたもんでな。ちょっと買い物だ」
「コーヒー?」
「ああ、この辺じゃここにしか置いてないからな」
ちょっとかがみ込んで菊丸の顔を覗き込んだ跡部は、もう一度口端だけで笑った。
「暇なら付いて来い。コーヒー位飲ませてやるよ」
何か。面白いことがあるかも知れないし。
地下の食品売場に続く階段をずんずんと降りていく跡部の背中を菊丸は慌てて追いかけた。

to be.....



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©愛のまるやけ 2001-2002 金谷ホタル